電子的ヒトリゴト

ゲイのブログ。主に読書、心理学、SOGI、日記など

青年期におけるゲイ男性の物語/『しまなみ誰そ彼(1)』

 

しまなみ誰そ彼(1) (ビッグコミックススペシャル)

しまなみ誰そ彼(1) (ビッグコミックススペシャル)

 

  主人公,たすく少年の葛藤などのリアルな心理描写がたまらない。本漫画の主人公は,高校生の要介(かなめたすく;以下「たすく少年」とする)で,ゲイ男性だ。物語は,ある日,たすく少年がゲイ動画を視聴していた履歴がクラスメイトにばれてしまうことから始まる。その後,たすく少年は「お前,そうなん?」とクラスメイトに言われるが,自分を押し殺したように恐ろしい笑みを浮かべながら「兄貴が送ってきた釣り動画だよ」や「バカじゃねーのホモなんて」と言い,必死に隠そうとする。自分がこの学校で生きていくためには,ゲイを嘲笑する側に属さないといけないという思いがひしひしと伝わってくる。そして,たすく少年は,ゲイがばれてしまった思いから飛び降りを試みるが,”誰かさん”と呼ばれる謎の人物に出会い,否定されない場所である”談話室”へと導かれていく。

 上述したやり取りの翌日,たすく少年は,登校しクラスルームに入るのだが,そのとき,クラスメイトに「おはよーホモ――ッ」と言われる。これは,辛すぎるなあ。これを読んだとき,たすく少年を通り越して,読者である私にまでそのダメージが飛び火してきた(^^;)。たすく少年は,そのときも引きつりながら笑顔を作ろうとするのだが,耐え切れず学校を飛び出していく。彼は,複雑に交錯されたさまざまな要因に苦しめられたであろう。たとえば,その要因は,突然学校を飛び出してしまったことによって学校に前のように戻りづらくなることであったり,自分がゲイであることが周囲に広まってしまう恐怖であったり,また,それらの気持ちを抱いていることを家族に知られたくないけど辛いという葛藤であったりだろう。

 Cassの同性愛アイデンティティ形成モデル*1によると,同性愛者が同性愛者としてのアイデンティティを獲得するうえで,――必ずしも全員が直線的にアイデンティティを発達させるわけではないが――初めに来る段階が,アイデンティティ混乱である。たすく少年は,自分がゲイである可能性がありながらゲイを否定するなどの否認的な態度を取っていることからこの段階を経験しているように思える。私もゲイであるが,このような時期を経験したことがある。同性愛に関する話題が身近で出ると,自分のことを言われているような感覚があり,動悸がして冷や汗をかいていた。そして,その場から逃げたり,話を振られると,終始否定的になったりしていた。今思えば,自分のことを一番苦しめていた要因は,他人ではなくおそらく自分であった。すなわち,内面化されたホモフォビア(同性愛嫌悪,または恐怖症)に苦しめられていたのである。これは,サンプル数1の私の経験からであるが,たすく少年も内面化されたホモフォビアに苦しめられているように見える。

 私はあまり漫画を読んでこなかった人間だが,本漫画は非常に良かった。漫画で描かれている心理描写は,私の経験と重なるところもあり,リアリティがある。同性愛者のほかに,その他のセクシュアルマイノリティを含めると,日本において約3~8%近くいると言われている。少なく見積もっても,40人のクラスに約1人はいることになるだろう。遠いようで,身近な問題である。その身近な問題を考えるうえで,本漫画は一読する価値がある。

*1:Cass (1979). Homosexuality identity formation: A theoretical model. Journal of Homosexuality, 4, 219-235.